建設途中の建造物を「城」や「洞窟」に見立てて、
その中を冒険する遊びに夢中になったことがあった。
最初は一人でやっていたが、そのうち中の良い友人たちも誘って行く様になった。
中学生の時、D&Dというテーブルトークが仲間内で流行った。
日曜日にマスターの家に集まって、ファンタジーの世界に没頭したものだ。
本当に好きでよくみんなで遊んだ。
そんな経緯もあって「D&Dごっこ」とみんなで呼ぶようにした。
学校の近くに「チュルコメ」と呼ばれている駄菓子屋があった。
その駄菓子屋を「冒険の酒場」と称して冒険の拠点にした。
一戸建ては「城」、マンションは「洞窟」。
ろうそくやライターをたいまつに見立てて冒険を繰り返した。
冒険を終えるたびに「酒場」でチェリオで乾杯した。
ああいった暗いところはなぜか興奮する。
人に見つかってはいけないという緊張感。
建設中の骨組みをよじ登る恐怖感。
無事に出てこれたことへの達成感。
そんなことを繰り返していたある日。
今日も「城」を攻略すべく意気揚々と乗り込む4人。
今日の「城」は木の板はむき出しだが、床、壁は既に組まれていた。
床にそっと足をのせる。
1階の各部屋をのぞいて2階へ向かった。
月明かりが差し込む部屋の真ん中にろうそくを立てた。
その火を囲みながら小声で会話を楽しむ。
自分たちだけの世界が広がっていく。
そんなときだった。
急に大きな声が響いた。
「誰かいるのか!!」
みんなに動揺が走った。
「しっ!、火消せ!」
それ以降誰一人として声を発するものはいなかった。
「城」に入っていくうちらの姿が見られたのか、
2階で灯したろうそくの光に気がついたのか。
沈黙の時間が流れた。
どうやらその人は家の周りを見て回っているようだ。
人の気配というのは分かるものだ。
入ってくる気配は無い。
一体どれくらいの時間が経ったかは分からない。
「行ったよな...」
「行ったと思う...」
同じタイミングで喋りだした。
他のみんなも気配を感じていたんだろう。
それから足音を立てないように1階に下り、一斉に「城」を飛び出した。
興奮冷めやらぬうちに戻ってきた「酒場」では今日の反省会が行われた。
「ホント、びっくりしたよな。」
「動揺して火消したけど、あれじゃ逆に居るのバレちゃうよなぁ。」
チェリオ片手に冒険譚が語られていく。
まったく懲りてない様子だ。
高校生1年生の冬が過ぎていく。